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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)575号 判決

上告人

織田美樹子

右訴訟代理人

木村幸正

被上告人

織田登

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木村幸正の上告理由第一点について

判旨農地の受贈者の贈与者に対して有する知事に対する所有権移転許可申請協力請求権は、民法一六七条一項の債権にあたり、右請求権は贈与契約成立の日から一〇年の経過により時効によつて消滅するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない(最高裁昭和四九年(オ)第一一六四号同五〇年四月一一日第二小法廷判決・民集二九巻四号四一七頁参照)。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の判断は、その説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤崎萬里 団藤重光 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人木村幸正の上告理由

第一点 控訴裁判所は、民法一六七条一項に違反した判決をしている。

即ち、農地法第三条及び五条所定の許可は農地の所有権移転の効力発生のための法定条件であり、右許可申請をすべきことを求める請求権は農地所有権移転の効力を発生せしめるについての不可欠の要件として行使を要するものである。

したがつてこれを登記請求権の側からみれば常にこれに随伴する権利とみるべきであり、時効による消滅あるいは中断についても登記請求権と共に消滅あるいは中断等の効果を受けるべきであると考えられる。

しかして本件登記請求権の根拠は右許可があつた場合、取得しうべき本件各土地の所有権に基づく物権的請求権であると考えるのが相当である。

したがつて右請求権には消滅時効の規定の適用はなく、これに随伴する知事の許可申請の請求権も消滅時効に罹らないと解すべきである。

これを排斥した控訴裁判所は法令違反である。

第二点 かりに許可請求権が一〇年で消滅時効にかかるとしても、控訴裁判所は民法第一五六条の法令の解釈を誤つた違反がある。

即ち、被上告人は、昭和四四年一一月二〇日頃口頭弁論の終結した別訴において、本件贈与契約の成立を認める陳述をなし、かつ同年八月三日における本人尋問のさい明確に本件土地を上告人に移転する義務があることを認めておるのにかかわらず、本件贈与契約の効力を争つているという理由で時効中断事由の承認とは言えないとしてこれを排斥したのは法令の解釈を誤つたものというべきである。

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